わたし、結婚するんですか?
 



 洸はひとり夜の海岸を歩いていた。

 真っ黒な海の白い波打ち際がすぐそこまで来ている。

 砂に当たって弾いた海水がちょっと足にかかってひんやりした。

 そのせいで、現実だな、と思えたが、夜の海に浮かんでいるようなイグレシアは、おぼろな月に映し出され、今日も幻のように美しかった。

 記憶をなくしたとき、この式場の存在自体忘れていた。

 友だちの結婚式で初めて、此処に来たとき、此処で課長と結婚したいと思ったからだったのだろう。

 世話になった入江さんや佐野さんたちまで、忘れていたのは。

 憧れの結婚式場に出向いたとき、スタッフもすごくやさしくて。

 ああ、此処で課長と結婚するんだ、と思った最高の気持ちを、きっと、まるごと忘れたかったからだ。

 そのとき、強く打ちつける波の音に負けない、よく通る声がした。

「此処だと思ったぞ、洸」

 遥久が立っていた。

 余裕でわかったようなことを言っているが、本当だろうかな? と月の光の下の遥久を見て思う。
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