わたし、結婚するんですか?
 申し訳ございませんでした、とソファの上に正座し、両手をついて頭を下げると、
「土下座か?」
と鼻で笑ったあとで、遥久は立ち上がる。

 パイプ椅子にかけてあった上着を取りながら言ってきた。

「まあ、顔に傷がつかなくてよかったな。
 結婚式の前なのに」

「はあ、そうですね。
 結婚前なのに……」

 遥久のセリフを鸚鵡返しに返したつもりだったのだが、なにやら違和感があった。

「花嫁が顔に絆創膏貼って出るとか嫌だろう。
 どんなドレス着てもマヌケに見えるし」

 なんだろう?
 微妙に我々の会話は噛み合っていないような気がするんだが……。
 
「いや、あのー……。
 私、すぐに結婚する予定はないので、大丈夫だと思うんですが」

 そう言ってみると、
「いや、するだろ、来月」
と言ってくる。

 来月?

「来月になったんだろ?
 お前がそう言ったぞ」

 そう胡散臭げに遥久が言ってきた。

「すみません。
 話がちょっと見えないんですが」
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