わたし、結婚するんですか?
 だが、まあ、自分は細かいことを気にするような性格ではないし、遥久のやる気と頑張りを買っていたので、特に気にしてはいなかったのだが。

 今、自分を見る目には、あのときとは違う殺意のようなものがあった。

 殺意だ、殺意。

 何故だ、悠木課長っ。

 ……お、俺は社長ですよ?

と半分敬語になりながら、目で訴えてみたが、遥久は、

 それがどうした?

と言わんばかりの視線で自分を見返してくる。

 いや……すべてはおのれの妄想なのだが――。

 遥久は、丁寧に頭を下げ、通り過ぎていった。

 よ、呼び止めて、訊きたい。

 何故、そんな目で俺を見るのだ、悠木課長っ。

 そう思いながらも、根本的なところでは、洸と似て、ヘタレで事なかれ主義なので、野生のケモノの前では、ただ、耳を伏せて、尻尾を丸め、通り過ぎるのを待つのみだった。

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