わたし、結婚するんですか?
下のフロアに下りてきた章浩は、ひょいと人事を覗いてみた。
洸はもう居ないのか、と少し寂しく思う。
かまってやろうと近所の庭先を覗いたら、いつも寝ている猫が居なかった、みたいな感じだ。
そのまま戻ろうとすると、向こうから、悠木遥久が来た。
自分よりは若いはずだが、落ち着き払っていて、なんだかわからない迫力がある。
任命したのは自分ではなく、父親だが、この若さで総務の課長をやるだけのことはあると思いながら見ると、遥久は自分に気づき、頭を下げてきたが、その視線は何故だか、激しく敵意に満ちていた。
所詮、ボンボンな自分はビクついてしまう。
……なんなんだ?
何故、こいつは、親の仇を見るような目で俺を見るんだっ?
自分が社長になったあと、出会った遥久は、
「おめでとうございます」
と頭を下げてきたが、その目には、
『大丈夫か、この若造で。
ボンクラ息子に社長を任せるほど、会長も惚けているわけではあるまいが』
というセリフが気持ち良く全部、書かれていた。