呼び名のない関係ですが。
でも、そんなつもりのない彼は長めの吸い殻を作った後、たて続けに二本目の煙草に手を伸ばすところだった。

「……お前は俺の母親か」
「ご冗談を。こんなバカでかい不肖の息子なんて、持った覚えがありませ~ん」

彼女の不適な笑顔につられるように、高遠さんの顔にも苦笑が浮かぶ。

そこからはセキをきったように次々と、彼らの会話は流れていく。

……なるほど。

駒形さんの感じた距離の近さというのは、これを指すのかな。

もしそうなら私が思ってた以上に、彼女はこの二人をじっくりと観察していたのかもしれない。

長い年月を経て作られていった信頼と、立ち入りがたいような空気。

互いをけなし合いながらも、心を許しているのがよく分かる。

他愛もないやり取りが目の前で繰り広げられているうちに、注文したビールがやって来た。

相田さんは『あらためて乾杯』と、自分の半分以上からになった中ジョッキを持ち上げる。

「乾杯好きかよ」と茶化しながらもゴツンとグラスをぶつけた高遠さんにならって、私もジョッキを小さく掲げた。

ビールを飲み干した彼女は、美味しそうな顔でふぅと息をつく。

「ホンットにお前、騒々しいな」

相田さんはクルクルと表情の変わるから、高遠さんもつい弄って構いたくなるのだろう。

高遠さんの容赦のない言い方に、彼女はムッとしながらシュンとするという器用な芸当をみせた。

そんな姿をみせられてしまうと、ひとの話に口を挟まない主義の私ですら「高遠さん、口悪っ」と、自然に言葉が漏れ出てしまう。
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