呼び名のない関係ですが。
「そうなんです、昔から口が悪いんですよ、このひとは。あまりの毒吐き加減に子供の頃から何度絶交したことか」

子供の頃からのブラックエピソードは腐るほどあるらしく、彼女はビール片手に長々と力説し始めた。

それは、運動会のリレーで相田さんが転んでしまい負けたためにむこう一週間給食のデザートをたかられた話に始まり、学力テストの出来が悪くて馬鹿にされたこと、高校の時は腹が減ったと彼氏にあげるはずだったバレンタインのチョコレートを勝手に食べられた話。

最近に至っては高遠さんのお兄さんの関西への長期出張を転勤だと大袈裟に嘘をついたことまで、口を挟む間もないくらいにノンストップだった。

「わ……鬼くさい」

私の短く零れた感想にも相田さんは「ですよね、ですよね」と、食いついてきた。

それまで彼女の話に口を挟むでもなく煙草を吸っていた高遠さんだったけれど、眉間にシワをよせて至極嫌そうな顔をした。

「三峰さんまで、何を言ってるんすか? だいたいお前の記憶力、なんかヤバいだろ。細かすぎるわ」
「私が細かいんじゃないの、そのくらい、アンタは昔から強烈だったのっ」

侃々諤々(かんかんがくがく)と言葉を交わすふたりは、まるで漫才コンビのようだ。

彼らの絆に何かしらの感情を持つのは違うと分かっている。

相田さんは自分の記憶を共有させようと、分かりやすく話をしてくれているに過ぎないのだから。
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