呼び名のない関係ですが。
でもいつの間にか、腹の底をかき混ぜられるような不安定な気持ちがのっそりと浮び上がってきていた。

羨ましいと思ってる?

自分の築いたことのない関係が。

吐き出しそうになった自己嫌悪の溜息を隠すために、だいぶ前に泡の消えてしまったビールを飲み込んだけれど、喉の奥に苦みだけが広がって到底美味しいとは思えなかった。

何もしないよりはマシだろうと仕事のために身に付けた社交性を総動員して相槌を打ちながら、どうしようもない居心地の悪さを感じた。

それでも笑顔を貼り付けて話を聞いていたのは、半ば意地みたいなものだった。

私のマーブル模様のような胸のうちを知らない陽気な彼女は、笑いながら新たな話題を提供し始める、その繰り返しだ。

そんなゆるい時間の流れのなかで、いつの間にか彼女の飲み物がビールから焼酎へ変わっていった。

彼女の追加注文を聞いたときは、酒に強いのかと思ったけれど、それはどうやら間違いだったらしい。

時が経つにつれて、相田さんは目に見えてご機嫌の酔っぱらいになっていった。

高遠さんはといえば、ただ微苦笑を漂わせたまま「ハイハイ」とこれまた適当に話を聞いているだけで、お酒を止めるつもりはないようだ。

ようやく高遠さんのお兄さんがやって来たのは、減りが悪い私の一杯目のビールが空になった頃だった。

自分の待ち人が来た、と彼女の表情がみるみるうちにほどけていく。

通路に背を向けて座っていた私にでさえ、誰が来たのか判るほどあからさまだった。
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