呼び名のない関係ですが。
私も名刺を渡すべき?

そんなことを考えること自体がアルコールの回りのせいかも、と考えてバックのなかを漁るのは辞めた。

「……すみませんでした、今夜は。急に会議が入ってしまったもので」

相田さんの隣りの椅子を引いて、私の向かい側に腰掛ける。

あなたの弟さんに訳も分からず連れて来られただけですから、とも言えず「いえ」と曖昧な返事しながら頭を上げると、お兄さんの口元にほんの小さく笑みが浮かんでいるのが見えた。

「何?」

不機嫌な声をあげたのは、高遠さんだった。

「いや。……やけに迷惑なそうだったから遠慮してるのかと思っていたんだけど。本当に迷惑だったのかと」
「誰が、お前らなんかに遠慮なんかするかっつーの。それよりも……そこの酔っ払い、自分でどうにかしろよ。今日は手なんか貸さないからな」

偉そうな口調の弟に対し、お兄さんは穏やかに頷いた。

「酔っぱらいって、もしかして私のこと? 私、まだそんなに飲んでないしっ」

相田さんは驚きの声を上げて、二人の高遠さんを交互に見る。

「もしかしなくてもお前だよ。さっきから話がリピートしてただろうが。『潤哉さんが来ない。忙しいのは分かってたのに、私との約束なんかで無理させちゃってたらどうしよう』って、うすら寒いヤツ。散々聞き飽きて耳が腐れるっての。……健気なのも度を過ぎるとバカだよな」

うんざりした口調で言い切った高遠さんは、相田さんを挑発的に見て笑う。

「颯哉のバカッ!! もうっ、そんなっ、何でばらすのよっ」
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