呼び名のない関係ですが。
一瞬にして真っ赤になって怒り出した相田さんを、お兄さんは背中を優しくポンポンと叩いてなだめた。

「お前も言い過ぎだよ、颯。遅れたのは俺なんだから、責められるのは俺だろう?」

真っ直ぐなもの言いでいさめるお兄さんに対し、高遠さんはニヤリと口元を歪める。

「んじゃ、ここは責任とって下さいよ。オニイサマ」

このあいだ駒形さんのスマホの画像におさまっていた高遠さんは、いや、さっきお兄さんが来るまでの間の高遠さんは、もっと優しい顔で相田さんを見ていたのに。

彼の演じる役回りに、何だか気が付いてしまった。

高遠さんは露悪的な態度を取りながらも、結局のところ彼女の気持ちを代弁してるだけだ。

お兄さんだって彼の手荒い思いやりのおかげで、彼女の可愛い遠慮に気付かされたりするのだろう。

「もうっ。だから潤哉さんに絡まないでってばっ」

相田さんに睨みつけられても、高遠さんは小さく肩を竦めただけだ。

「お前がアホみたいに酔っ払ってばかりいると、潤哉の監督責任が問われるんじゃないの? せっかくひとり暮らしのお許しが出たってーのにさ。お前んちのおっさん怖いんだから」
「監督って……。あのね、私、もう立派に成人した社会人だよっ?」
「年なんか知ってんだよ。厳重梱包されてる娘が実家を出るなんて反対されるの目に見えてたくせに、説得するのに俺らまで巻き込んで何やってんの? お前」
「それはっ。だから悪かったってこの間も言ったじゃないっ」
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