呼び名のない関係ですが。
「自立とか、まどろっこしいこと言ってないで潤哉と一緒に住めばいいんじゃねーの?」
「だ、だからっ、それはっ」
「……颯哉、俺達には俺達のペースがあるから。心配してくれるのはありがたいと思ってる」

お兄さんの穏やかだけれどはっきりとした言葉に、高遠さんの表情が消えたように見えた。

私の見間違いかもしれないけれど。

私が瞬きをしたあとにはもう、高遠さんは悪辣な笑みを浮かべていて「そりゃ、ごちそうさまってことで」と何杯目かのビールに口をつけた。


『それって愛だよね』

いつだったかこのふたりの恋の顛末を聞いたとき特に深く考えることもなく、高遠さんのことをそう茶化したことがある。

そのとき、高遠さんはなんて答えたっけ?

何気ない会話だったけれど、そういうんじゃない、みたいなことを言っていたような気がする。

だけど今夜、私が目の当たりにしたのは、分かりにくくて屈折気味な高遠さんの愛情だった。



それからほどなくして、この変な組み合わせの飲み会はお開きになった。

というのも、それまでハイペースで飲み続けていた相田さんが高遠兄の登場で安心したのか、ウトウトし始めたのだ。

高遠さんのお兄さんはこうなることを予想していたらしく、早々にご飯ものをウーロン茶で流し込んでいたのが何だか微笑ましい。

「俺たちもタクシーで帰ります?」

タクシーに乗り込むふたりを何となく見送ることになったあと、高遠さんに聞かれた私は首を横に振った。

「じゃ、少し歩きますか。酔い覚ましに」
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