呼び名のない関係ですが。
高遠さんにとっての『あいつ』は、相田さんで。

大事なものを懐かしむような遠い目をしていることに、高遠さん自身は気付いているのだろうか。

こんな表情を浮かべるときは、大概、彼女が絡んだことなのに。

「子供の頃は、樹希のことでよく兄貴に叱られましたよ。兄貴は成績も良かったんで樹希と勉強を見てもらったりしてたけど、俺は友達と遊びたくて結構サボったりして。兄貴には『樹希ちゃんは真面目に勉強してた。お前、その分負けてるぞ』って脅されたし。スポーツの時だって、兄貴には『体格の差を武器にするな』って言うけど、少しでも手を抜くとあいつは怒りだすしで、どうしろってーのって俺もキレたりして」

容赦なく言い合って、怒って笑って、許し合う。

さっき私が見たのは、そんな時間の積み重ねだった。

「俺の兄貴だってのに、あいつのカタばかり持つ潤哉にイラっとした時期もあったけど、まぁあの通りのひとなんで」

高遠さんは自嘲的にクスリと笑って話し続ける。

「確かに俺もね、かなり意地悪なことしたんですけどね」
「ああ、さっき相田さんも言ってた」
「いや。もっと酷いヤツっすよ」
「もっとって。さっき聞いたのもわりと酷いと思うけど?」

子供の頃のことはともかく、高校生にもなってバレンタインの彼氏用に用意したチョコを食べたとか、そんなヤンチャだったのかと軽く引くレベルだ。

「アレは本人が気付いた話だけです」
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