臆病者で何が悪い!
ドクンドクン――。ドキドキ、なんて甘いものじゃない、痛みを伴う心臓の鼓動。
「ど、どうしたの……?」
私の身体を抱きしめる腕に力が入る。
「内野……」
耳元間近で聞こえた生田の声が酷く擦れていて。
怖い――。そんなことを思う前に、びくっと勝手に身体に力が入ってしまった。
「……大丈夫。これ以上のことは何もしない。だから、このままで」
「別に、怖がってないよ!」
私は咄嗟に声を上げていた。生田を怖がっているわけじゃない。そうじゃない――。それなのに、どうしても身体が強張ってしまう。身構えてしまう。
――でも。それは結局、怖いということだ。どんなに違うと言い張っても、私は確かに怖がっている。生田と深い関係になることを――。
「……無理しちゃって」
「無理なんかしてない」
私は生田と付き合っている。だから、男と女として、生田の彼女としてそういう関係になるのも当然のこと。子供じゃないんだから、それも分かっている。
でも、この距離感に逃げていた。生田の腕が私の身体を包み込む。生田の吐息が肩にかかる。
――早く、シタイ。沙都の身体、たまんない。
な、なんで――?
なんで、今、あの男の顔が蘇るの――?
あの顔を、あの声を振り切りたくて何度も頭を振った。
「あんたの嫌がることは、絶対にしない。だから、俺に怯えないで――」
――怯えないで。
「私……っ」
何を言えばいいのかなんてまったく思い浮かばないくせに、何かを言わなければと声を上げたけれど。
何も告げるべき言葉を持っていないなんて――。
「――分かってる。少しずつでいい」
そう言うと、生田が腕に力を込めた。
「分かってる」
自分に言い聞かせるように生田が繰り返す。
私ですらよく分からないこの感情の、一体何を分かってるの――?
生田は、その晩も私を抱きしめただけでそれ以上のことは何もしてこなかった。そのことに安堵してしまった私の気持ちも、分かっていたのだろうか。
その夜、いつもの顔で生田は私を家まで送り届けてくれた。