臆病者で何が悪い!


生田の予告通り、翌週の生田は殺人的な忙しさだった。隣の係の私から見ても、見ているだけで疲れてしまう。

「生田さん、同じような案件の過去10年の予算、どの程度だったかざっとまとめてくれるかな」

課長補佐が、いくつもの書類を同時に見ながら生田に指示を出している。

「はい。必要になるかと思いまして、既に準備してあります」

「そうか。じゃあ、それこっちに。それから、うちの課だけでなく他課でも似たような事例があったらそれもいくつか参考資料としてほしいんだ。幹部の説明資料に追加したいから、そっちも分かり易い資料お願いできるか?」

「分かりました」

「悪いけど、それ3時間くらいでほしい」

「いえ。2時間ほどいただければ十分です。それと、会計課に行ってどの程度うちに予算回せるのか大体の額は探りを入れておこうと思います」

「そうだった。それ、大事だな。じゃあ、まあ、その辺のこと、まとめてよろしく頼む」

「わかりました」

補佐と生田の会話に、つい聞き耳を立ててしまう。そしてちらりと横目で見れば、生田はもう既に自分の席に着きもくもくと作業に取り掛かっているようだ。

「あっちは、今進んでる事業が通るか通らないかで、今後の存在意義に関わって来るからなぁ……」

隣の席で、田崎さんがぽつりと呟いた。

「それにしても、生田さん。相当頼りにされてるわね。まあ、あれだけのこと同時にこなせる能力と視野の広さがあるから当然だけど」

向かいの席の結城さんも、いつの間にか手を止めて様子をうかがっている。

「でも、その期待に期待通りに応えるのも、大変なことよね」

今日だって、ほとんど寝ていないはず――。
少し気になって、昨晩の生田の退勤記録を見てみたのだ。

――26:30

それからタクシーで家に帰り、少し仮眠をとればもう出勤して来て。何時間と寝ていられない。それでも、ミスは許されない。

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