臆病者で何が悪い!
「……今日は突然来て、あんたの一日奪ったみたいになったな」
「ううん。来てくれて、良かったって思ってる……」
気付くとこの口がそう言っていた。そうしたら、生田の表情が一瞬固まる。
「生田……?」
「……今のは、反則」
「え? 何が?」
固まった顔を今度はくしゃりとさせて、生田が私の頬に指を伸ばした。緩んでいた表情がいつの間にか真剣なものに変わって。そんな生田のすべての表情に、私は翻弄される。
「……キス、していい?」
強引だと思う時もあれば、こうやって気遣ったり。
そう言えば、付き合い始めてからキスすらしていない。
私の顎に触れる生田の指の温度と、熱のこもったその目が、私の胸を激しく鼓動させるから。どくどくと打ち付けて来る鼓動が身体全体を揺らすみたいで。
その振動が生田にもばれてしまったらどうしよう。
「ま、前は、許可なんか取らずに勝手にしたのに……!」
だから、この緊張がバレてしまわないようにと俯いて。引きつった声を張り上げる。
「……じゃあ、遠慮なく」
――怖いけど。
近付く気配に、固く目を閉じる。私に触れている生田の指に力が入る。そして、唇が重なった。優しく唇が重なりあっただけだけのキス。壊れ物に触れるように添えられた指――。ひどく優しいキスだった。それだけでも、私の胸は一杯になる。こんなキス、されたことない。
ゆっくりと離れる唇から吐息が零れた。
「……ごめん。調子に乗り過ぎたな」
触れたままでいた指が頬をなぞるように落ちて行くと、生田がそう言葉を漏らした。
「内野、凄い固まってる」
「べ、別に、これくらい」
一気に体温が上昇する。
「……じゃあ、帰る」
私の肩をポンと叩き、生田が立ち上がった。
待って――。と咄嗟に心に浮かんだ言葉は声にならなかった。