臆病者で何が悪い!
週末の道路は混雑していた。渋滞のせいで、車はのろのろと動いて行く。おかげで、ゆっくりと生田と言葉を交わすことが出来た。
「おまえさ、また、同期の飲み会で幹事やるの?」
「飲み会? そんな話あったっけ……。ああ、でも、時期的にそろそろありそうだね」
「メール来てただろ。新年会だとか言って。ホントにあいつらも暇だな。毎回毎回……」
生田が溜息混じりにぼやいていた。
メール来てたんだーー。仕事が立て込んでいたから、同期からのメールは開くのを後回しにしていた。
「いつも、積極的に幹事をやっているわけでもないんだけどね。でもまあ、私がやることになるとは思う」
いつもの流れを思い出して苦笑する。またどうせ、桐島と遠山あたりから、『次はどうする?』なんてメールが私宛に届いていたんだろう。
「……あっそ」
生田が素っ気なくそう言った。
「ん? それがどうかした?」
「俺は、係長になったばかりで今回は行けそうもないから。仕事が立て込んでる」
「そっか、残念だね」
同期の前で何でもない風を装うのに緊張しなくて済むからホッとしつつも、少し残念だと思う自分もいる。
「俺は別に。これまでだって、特に同期と盛り上がりたくて行ってたわけじゃないから」
「じゃあ、なんで来てたの? 私ずっと不思議だったんだ。生田ってみんなとワイワイするタイプでもないのに、同期の飲み会の出席率高いなって」
それは、ずっと不思議だった。
「それより、また飲み会で世話焼きすぎるなよ。あんな奴ら、酒飲ませて放っておけばいい」
あ……今、なんか誤魔化した?
「そうだね」
でもその生田の言い方が、面白くて笑ってしまった。
「そう言えば」
飲み会の話で思い出した。田崎さんのことだ。
「田崎さんのことなんだけど……」
「田崎さん?」
生田の眉間に皺が寄る。
「田崎さんからまだ何も言われてない? 生田、係長に昇任するからって、田崎さんが昇任祝いの飲み会をセッティングしようかなって言ってたの。生田を無理やり出席させるって……」
なんとなく、前もって言っておいた方がいいと思った。田崎さんが本当にそうするつもりかどうかは分からないけれど、少なくとも生田は参加したくないと思う気がする。
「ったく、めんどくさい人だな」
舌打ちするように心底迷惑そうな表情をした。
「その時には私にも絶対出席してねって。一体どういう意味なのかなって思って。でも、まだ何も言ってきていないならただの思いつきだったのかもね。深い意味はなかったのかも――」
「おまえ、行くって言うなよ」
ちょうど車が停車していたからか、生田がこちらを向いた。その表情が少し怖い。その表情に圧倒されて、言葉が出なかった。
「……それでも、どうしても断れなかったら俺に絶対に言え。その時は、俺も行くから」
「う、うん。分かった。でも、生田が行かないって言えば、その会自体成り立たないんじゃ……」
おそるおそるそう言うと、生田が呆れたように溜息をついた。
「田崎さんには気をつけろって言ったろ。あの人の目的がどこにあるか分からないだろ」
そう言い終えると、生田はまた前を向いた。