臆病者で何が悪い!

希の泣いていた顔が何度も浮かんで私を責めたてる。私が慕っていた頃の田崎さんの優しげな笑顔が浮かぶ。そのどれもを振り切りたくて突っ伏す。
動けない。身体に力が入らない。玄関先は暖房が届かない。いつの間にか自分の体の触れる場所が冷たくなっていた。

生田――。生田に会いたい。早く。こんなとこにいる場合じゃない。早く、生田のところに行かなきゃ――。力が入らずに座り込んでいた身体を起き上がらせる。

――ドンドンドンドン!

ドアを激しく叩く音がして、身体がびくつく。恐怖のあまり身をすくませている間に、ドアが勢いよく開いた。そこに立っていたのは、いつも私に見せてくれる表情とは全然違う顔をした生田だった。

「……い、くた? どうして……?」

どうしてそこに生田がいるのか分からない。生田のマンションで待ってるいると告げた。生田も仕事を片付けてから帰って来ると言っていた。でも、何より分からないのが、目の前に立つ生田がこれまで見て来たどの生田とも違う、怒りと冷たさを湛えた目をしていることだ。

「――なんで、こんな時間に田崎さんがおまえのマンションから出て来るんだ?」

「え……?」

その声も、どこから発している声なのか分からないほどに低くて冷たい。冷え冷えとした低い声。それがその怒りの大きさを示しているようで。声を荒らげられるよりも生田の怒りが伝わる。

「答えろ!」

でも、もう堪えることも難しくなったのか生田はすべての感情を吐き出すように私に叫んだ。見慣れた私の部屋をその声が切り裂く。

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