臆病者で何が悪い!
(本当にごめんなさい)
申し訳なさそうな声。
あいつのことだ。俺と飯塚の間に挟まれて、心を痛めているはず――。
そう思ったら、少しでも労わってやりたいと思った。
「バカ。分かってるって。おまえが放っておけるわけもないだろうしな。明日は会えるんだろう?」
(うん)
楽しみが一日後になっただけ。
ただそれだけ。
何度もそう自分に言い聞かせて、精一杯いい男面をする。
そうして電話を切った後、俺はベッドに座り込んだ。
「きっついな……」
楽しみにし過ぎていたせいで、半端ないダメージだ。
たかがこれくらいのことで大袈裟な――。
そんな風に笑い飛ばしでもしないと、とんでもない精神状況に陥りそうで。
この数週間の疲れすべてが、どっとのしかかってきた。
そのまま後ろに倒れ込んだ。そして何気なく両腕を天井に向けてあげる。
本当なら今頃、この腕の中にいたのかな……。
って、本当にどうしようもない。
自分を奮い立たせるように立ち上がる。
明日には会えるって言ってたじゃないか。
飯塚が今日は泊まって行くのなら、明日の午前中も会うのは無理だろう。
だったら、日曜に回した仕事を明日の午前中に終えてしまえばいい。
そうすれば、土曜の午後と日曜日丸一日ゆっくり会える。
そう思い直してバスルームへと向かった。
翌日は朝から職場で仕事をしていると、10時に沙都からの電話があった。
(今、希が帰ったところなの。だから、私はいつでも会えるよ)
俺以外にも数人出勤していたから、声を潜めてフロアの外に出る。
俺が職場からそのまま沙都のマンションに行くと言ったのに、何故だか沙都は俺の部屋に来るのだと言ってきかなかった。
昼食を作って待っていてくれると言うその言葉に、自然と笑顔になる。
どこであろうと沙都と会えるのならいい。
そう思って電話を切ると、再び着信を知らせるようにスマホが振動した。
あまりにすぐだったので、びくっとする。
何か言い忘れたことでもあるのか。そう思って電話に出ようとした。でも、ディスプレイに表示されていたのは沙都の名前ではなかった。
どうして、田崎――?
この番号から電話がかかって来たことなんてない。
わけがわからず、おそるおそるその電話に出る。
「電話なんて、一体、何事ですか」
どうしても声が低くなる。
(今、内野さんの部屋にいるんだ。いちおう”今”の恋人はおまえだから生田にはきちんと報告をしておくべきかと思って)
は――?
「……あんた、何言って――」
かろうじて、そう声にした。
(信じる信じないは、おまえに任せる。じゃあ)
「待て」
嘘に決まってる。
飯塚が泊まっていたと言っていたのだ。だから、きっと飯塚を迎えに行ったんだ。そういうことだ。
「飯塚があいつの部屋に泊まったと聞いてる。だから、それを迎えに行ったんだろ? そうだな?」
そうに決まってる。
そう思うのに、この心臓は加速度的に鼓動を早くする。
(希はいないよ。僕しかいない)
「そんなはずない。昨日の夜から飯塚がそこにいるはずで――」
(それをおまえは見たのか? それが、おまえを内野さんのマンションに来させないための嘘だったらどうする……?)
ない。そんなことあるはずない。