臆病者で何が悪い!
でも――。
もし、田崎の気持ちが本物だとしたら。
沙都を本気で好きだったとしたら。
俺は、一体、どうする――?
心臓がぶっ壊れそうなほど激しく鼓動しまくっていても、胸を貫くような痛みでどうにかなりそうでも足を止めることができなかった。
たとえ、それが沙都のためにならないとしても、俺は手放せないよ。
田崎のところになんか行かせてやれない。
大丈夫。沙都は、俺のこと、想ってくれてるって。
――生田。
俺のことを呼びかけるあいつの顔が浮かぶ。
名前は未だに呼んでもらえないけれど。
好きだという言葉は、まだもらえていなけれど。
それでも確かに――。
俺を見つめてくれるあの目は、本物のはずだから。
すべてが俺の思い過ごしで、俺の思い込みで、本当は俺が思っているのと全然違う現実があったとしたら――。
想像することさえ怖いことが頭を過ろうとするけれど、一歩一歩沙都に近付くほどにそんな想像を振り切った。
沙都の元にたどり着くまで、俺は振り子のように弱気と強気を繰り返して、
自分に『大丈夫だ』と言い聞かせ続けた。
なのに――。
たどり着いた沙都のマンションから、一番見たくない人が出て来た。
田崎――。
その時、何かが切れる音がして。それでもまだ、何かの見間違いなんだと思おうとしていた。
でも、何度見てもそれは田崎で。そして、そこは間違いなく沙都のマンションで。
田崎が俺の方へと向かって来る。
その時の俺は、多分、情けないほどに動揺した表情をしていただろう。
「……やっぱり来たんだな」
俺は、今、どんな感情になっているのか。
「今、彼女、一人だよ。行けば?」
「なんで――っ」
言葉より先に田崎の胸倉をつかんでいた。
「一体、何がしたいんだ? おまえ、沙都に――」
「好きだよ。だから、彼女を傷付けるようなことはしない。安心して」
そう言った田崎は、険しくどこか歪んだ表情をしていた。俺を挑発するようないつもの表情じゃない。そして、俺の腕を乱暴に振り払った。
ここに田崎がいた。
沙都のマンションを知っていた。
田崎と沙都が二人でいた。
沙都が、俺に、嘘をついた――。
そう思ったら、胸が焼けるようにひりついて。俺は我を忘れた。