臆病者で何が悪い!
自分をこんなにも失ったのは初めてだった。
会いたくて会いたくて仕方がなかったのに、声を荒げて肩を押さえつけて。
その顔を見たら、心の中が荒れ狂ってもうダメだった。
目の前の沙都が、もう田崎のものになってしまっていたら。
俺の手から離れて行くのかと思ったら、震えるほどの恐怖でどうしようもなくなった。
「ちゃんと説明するから、聞いて!」
荒れ狂う俺の心を落ち着けようと必死で俺にしがみつく沙都の体温が、冷え切った身体に伝わって。
「信じて」
本当なら、沙都を信じることのできるあらゆる状況を考えるべきだったのに。
結局俺は、沙都を疑った。
「俺、何やってんだ……」
その事実が、俺を自己嫌悪でいっぱいにする。
いくら疲れていたからと言って。
いくら追い詰められていたからと言って。
いつから俺は、こんなにも愚かな男になったんだ――。
その後は、俺を慰めるように、ただ沙都が抱きしめてくれた。
「今日、私が生田の家に行くってことにしていたのに、どうして生田はうちに来たの……?」
沙都からそう問われた。沙都が不思議に思っても仕方がない。
電話でそういうことにしていたんだから。
本当のことを伝えるべきなのか。
でも、これまでの経緯を沙都に話すということは、田崎が沙都の気持ちを利用していることを言わなければならなくなる。
そんなことを聞かされて、沙都もいい気はしないだろう。
でも、このままにもしておけない。
「田崎から連絡があったんだ。おまえのところにいるって」
「え……?」
沙都の目に動揺が走ったのに気付く。
驚きなのか、それともそれ以外の感情もあるのか、ただ酷く動揺していた。
「どうして、そんなこと……」
そう言葉にするのもやっと、というような状況の沙都に俺は何かを感じた。
「俺、田崎に嫌われてんだよ」
敢えて軽い口調でそう言う。既に嫌というほど重苦しくさせられている。もう、十分だ。
「おまえにとっての田崎は、優しくて穏やかないい人だもんな。俺がこんなこと言ってもピンと来ないかもしれないけど」
沙都は何を考えているのか、黙っている。
「俺がおまえのことを好きだって気付かれててさ、それで俺を挑発したいらしい」
改めてこう口にしてみると、本当にどうかしていると思う。だから、田崎の思考回路がまったく理解できない。
ここに来て、これまで他人に興味を持たずに生きて来たツケが回って来たのか。
「ごめん、何も知らなくて、私……」
重苦しくならないように話したつもりだったのに、目の前の沙都は表情を強張らせて俯いていた。
「いや、おまえは悪くない。俺も何も伝えていなかったんだし。それより、俺の言ったこと信じてくれるのか……?」
じっと見つめる。いつも俺以外の人に見せている田崎の顔からは考えられないことだと思う。
それでも、俺の言うことを信じてくれる――?
俺の視線に気づいたのか、沙都が俺の目を見てはっきりと言ってくれた。
「そんなの、あたりまえでしょ。私が、生田の言葉より田崎さんを信じるとでも思った?」
少し怒っていた。抗議の滲む声だった。でも、それが嬉しかったりもした。
「ごめん。嫌な言い方した」
信じてくれるなら。一つ教えてほしい。