臆病者で何が悪い!
その夜、沙都のベッドで身体を寄せ合って眠った。
「こんなふうに一緒に寝るの、久しぶりだな……」
カーテンの隙間から差す薄明りが、部屋を暗闇にはしていない。
ぎゅっとその身体を抱きしめながら、すぐ傍にある沙都の髪を梳くように撫でる。
「本当に、会いたかったんだ」
沙都の匂いを身体いっぱいに吸い込む。こうしたくて、俺はずっともがいていた。
「私も……」
腕の中からくぐもった声がする。
「ホントかよ。合鍵まで渡したのに、一度も来なかった」
「それは――」
さっきは感情のままに抱いてしまった。でも、今は、その存在のすべてを確かめるように触れていたい。
「生田、慣れない仕事で大変そうで。邪魔したくなかった。出来る限り休んでほしくて。本当だよ」
「その言葉は何度もメールで聞いたよ。でも、肉体的な疲れだけじゃない。精神的な疲れは寝ただけじゃ取れないだろ。俺は、おまえに会いたかったんだ。こんな風に抱きしめるだけで満たされるんだから」
手のひらに感じる柔らかな髪。もう片方の手のひらには沙都の肩甲骨が動くのを感じて。
そのどれもが大切なものだ。
「……ごめん。私、ダメだね。生田の本当の気持ちも分かってあげられないなんて、バカだ」
沙都の細い指が俺の胸に触れた。
「俺は、思ってもないことなんか言えない。俺がそういう人間だって知ってるだろ?」
「ふふ。そうだね。言葉は少ないくせに遠慮ないことばっか言われてた」
腕の中にいる沙都が笑う。
「だから、おまえも正直に答えて」
「何?」
そんなことを要求している時点で、沙都がくれる答えが本当かどうかわからなくなるのに。
ただ言葉でほしいだけなのか。それでもいいから安心したいだけなのか。
「おまえは、後悔してない?」
「……何に?」
好きだって、言われたんだろう――?
それで、どう思ったの――?
「――俺と付き合ったこと」
俺に身を任せていた沙都の身体が強張る。
「なんで、そんなこと聞くのよ」
沙都が俺の胸に寄せていた顔を上げた。
「そうだよな。そんなこと、俺が聞くのはおかしいな……」
何も考えずに俺の女になれ、なんて言って。
失恋して弱った心の隙につけいるようなことしたのは自分だ。
田崎の言う通り。だから沙都を手に入れることが出来た。
それでもいいと思ってる。なのに、なんでこんなに苦しいんだよ。
堂々巡りの感情ががんじがらめにする。
それでもやっぱり、あの時沙都に想いを告げたこと、俺は後悔なんてしていない。
どんなに苦しくたって、構わない――。
だから。沙都にも後悔してほしくない。
「俺は俺の思うままにしてきたんだ。だから、沙都だって自分の気持ちに正直になっていいんだ」
沙都はこれまでずっと、自分の思う通りに生きて来られなかった。
自分の想いを秘めて、誤魔化して。
だから、沙都だってそうできる状況になったのなら自分の思う通りにするべきで。
そうして欲しいと思う。
思うよ――。思うのに、離したくないと身体は沙都を強く抱きしめてしまう。
「何言ってんの。私、今が一番、自分の思うままに生きられてる。これまでの人生の中で一番。それは全部、生田のおかげだよ」
後悔してほしくない。自分の本当の気持ちを誤魔化したりしてほしくない。
それでも俺といる方がいいと、思ってほしい――。
支離滅裂な感情のまま、沙都の柔らかな身体をきつく抱きしめて夜を越した。