臆病者で何が悪い!

「おい、待てよ」

廊下の角から声がして、それと同時に現れた姿が私の行く手を阻んだ。

「……な、なに?」

声が強張る。そして、じっと廊下の床を見つめた。

「『なに』じゃねーだろ? おまえ、この二日、一体何してたんだ?」

顔を見なくても分かる。その低い声が全てを物語っていた。

「今、仕事中だから。部屋に戻る――」

「待てよ!」

すぐさまその長身の身体の横を通り過ぎようとしたのに、咄嗟に腕を掴まれた。

「何度電話しても繋がらない。マンションにもいない。何か、あったのか?」

さっきと違って、少し柔らかくなった声。私の身に何かが起こったのかと案じてくれているのだろうか。

それは、情から来るもの?

それでも、この数ヶ月ほとんどの時間を一緒に過ごして。何度も抱き合ってーー。その感情を完全に信じるのが怖くてもがいていたのに、いつの間にか私は生田に心を全部奪われていた。ここにいる人は、もう私のものじゃない。離れて行く人だ。胸が苦しくて、体を強張らせた。

「ちょ、ちょっとね。実家の方で用事が出来て、週末そっちに帰ってたから。ただ、それだけだよ。もう、離してっ」

その腕を力いっぱい振り払おうとしたのに、生田の手がそうはさせなかった。

「それなら、なんで俺の顔を見ない? おまえ、なんかおかしいだろ?」

「やめて。場所を考えて――」

「俺の顔を見るまで、離さねーよ?」

私を掴む手の力がより強くなる。コツコツコツ――。静かだった廊下に足音が聞こえて来た。

誰かに見られる――!

生田の手の力が緩んだすきに、腕を振り払い生田から離れる。そして、生田に背を向けて足早に立ち去った。

私をこれ以上、惑わせないでーー。
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