臆病者で何が悪い!


何の予定もないから適当に決めて取った夏休みがやって来た。嬉しいけれど、少し寂しいと思ってしまう。それは、田崎さんに会えないからだ。

3日も田崎さんの顔を拝めないなんて!

たかが三日だ。カレンダーに普通にある三連休と同じじゃないか。
でも、夏季休暇だと長く感じるから不思議なもので。

一人、1DKのマンションでゴロゴロとしていても、田崎さんの柔らかな笑顔が浮かぶ。

一日の大半を田崎さんの隣で過ごしているから、実はいろんなことを発見しているのだ。
まつ毛が長いこととか、指が細く長くて男の人にしては綺麗だけれど、でもちゃんと骨ばっていて男らしくて。座り姿も姿勢がよくて。どんなに忙しくても、周囲が殺気立つ深夜でも、田崎さんは決してイライラしたり八つ当たりしたりしないのだ。そういう人がいるだけで、心を落ち着けることが出来る。
だから、私も焦って不必要にミスしたりせずに済む。

絶対、将来素敵な上司になるだろうな……。

大人買いした少女漫画を手にしながら、ぼーっと結局田崎さんのことを考えていた。

それに比べて、生田は――。
生田の方が先に夏季休暇に入っていたから、そろそろ出勤して来ている頃だろう。

あの男に感情というものはあるのだろうか。表情一つ変えずに、冷たい言葉を放つし。かと思えば、意地悪いことを言ってからかったり。一人余裕を振りまいて。

でも、ああいう男が恋に落ちたらどんな顔を見せるのだろう。

少女漫画で言うところの、ツンデレだ。ああいう無愛想な男がデレたら……なんて恋愛モノの漫画的には最高の設定だけれど、生田に限ってはまったく想像できない。

だけど、あの、希に対する態度……。

ふと、お昼休み希が私のところに訪ねて来た日のことを思い出す。

まさか、あれ?
好きな子ほど苛めたくなる、みたいな?
話をしたいんだけどそう出来ない代わりに憎まれ口を叩いちゃう、みたいな?
生田って、あんな飄々としていてそんな小学生みたいなことするの?

心の中で思いを巡らしては、ニヤリとしてしまうけど。

でも、結局――。生田みたいにクールで何を考えているのかよくわからない男も、ご多分に漏れず希のような誰が見ても分かる綺麗な子を好きになるんだな……。

そりゃそうだよね。希だもの。冷気を身にまとっているような男の心も溶かせてしまうのだろう。

もし希と相思相愛になったら、希にだけ甘い顔を見せるのだろうか……。

――って、そんなこと、別にどうだっていいし。

左側には缶ビール、右側にはチーズ。それらを時おりほおばりながら、ベッタベタの恋愛モノの漫画を読む。最高に至福の時間だ。

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