臆病者で何が悪い!

「――ずっと待ってたのに。ニューヨークに訪ねて来てくれるの」

「え……?」

急に声が低くなった気がして、俺は思わず沙奈絵の顔を見た。

「あ、ううん。私という知り合いもいるんだし、ニューヨークに観光がてら遊びに来てくれるかなーって思ってたのに、全然そんな気配ないから。元カノである前に大学の先輩としては、ちょっと寂しかったわけ」

慌てたように、急に饒舌になって笑っていた。

「あ、ああ。働き始めたら忙しくて、海外旅行なんて優雅なことする余裕ない」

「そ、そっか……。ねえ、眞……、今、眞は――」

何かを沙奈絵が俺に問い掛けようとしたと同時に、聞き覚えのある声がした。

「よお! 生田か?」

「……柿崎、か?」

必要以上にでかい声が耳障りだ。つい、眉間にしわを寄せてしまった。

「おい。それが、久しぶりに会う同級生にする表情かよ―。って、あ、岩谷さん! どうも、お久しぶりです」

「うん。久しぶり」

一瞬流れたような張り詰めた空気が、柿崎の登場により消え去った。
それに、どこかほっとする。

「隣、いいっすか? 俺、今来たところで。思ってたより人集まってんですね。座る席なくて焦ってたんですよー」

「ど、どうぞ……」

一人捲し立てると勝手に沙奈絵の隣に座り込んでいた。

それからは、教授が登壇するまで、もともと口数の多くない俺と沙奈絵の代わりに、柿崎が一人喋りまくっていた。


最終講義が終わり、教授に少し挨拶を済ませれば、すぐに飲み会となった。
先生の教え子は俺たちだけではない。ゆっくり語り合うような状況でもないわけだ。
人付き合いの悪い俺にとって、会う人会う人ほとんどが卒業以来に顔を合わせる人で。
誰も彼もから「久しぶりだな」とか、「ほんとにおまえは素っ気ない」とか、「生きてたのか」とか、そんな声ばかり掛けられる。
今日は帰さないとばかりにがっしりと肩を掴まれていた。

そんな状況で、飲み会の席も同級生に囲まれていたから、沙奈絵とは結局その後は話をしなかった。沙奈絵は自分の同級生たちと共に席に着いていた。

それはそれで、やっぱり少しほっとしている自分がいた。

「おまえ官僚やってんだろ? 意外だったよな。おまえみたいなタイプが国民の公僕を選ぶなんてさ」

隣の席に座る同級生が、どこかバカにしたように笑う。やんややんやと、本当にうるさい。

「生田はもっと違う仕事を選ぶと思った。そうだな……一人で黙々とできるような仕事、例えば、デイトレーダーとか?」

「ああ、それなんか分かるー。人に興味ないもんな」

人のことで、勝手に盛り上がっている。

タイミングをみて、帰るか――。

1、2時間付き合えば、それなりにこの場での義務は果たしたような気がする。
それに……。

来週からは一週間出張だ。少しでも沙都と過ごしたい。

今日は部屋で待っていてもらってるしな――。

両隣真正面から聞こえて来る会話は遠くに聞こえ、俺は一人まったく違うことを考えていた。

今、あいつ、何してんだろ――。

「生田、おまえ彼女とかいないのか?」

「は?」

ちょうど沙都のことを考えていた時にそんなことを聞かれて、思わず聞き返してしまった。
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