臆病者で何が悪い!
「おまえ、人に興味ないからって、まさか女にも興味ない、とかないよな?」
「いや、あり得るかもしれないよ? 生田だし。もしくは、『干渉しない、うじうじしない、放っておいても大丈夫な超自立してる女……それなら付き合ってもいい』とか、その冷たい目で言い放ってそう」
「うわー、最低!」
バカか――。
俺は溜息をつく。
沙奈絵の性格もあり、俺と沙奈絵が付き合っていたことは、周囲にはほとんどバレていなかった。だから、こいつらは知らない。
「――付き合ってる人いるよ。残念ながら、超真剣交際だよ。アホ」
「えっ! なに? 生田、真面目なお付き合いできるのかよ」
「俺のことなんだと思ってんだ。それより、少し声を落とせ」
うるさい男だ。
「だって、聞きたいだろ? こうやって久しぶりに会って話すことなんて、仕事のことか恋愛のことだと相場は決まってんだから」
「どんな人なの? 超美人とか? 超有能とか? 超クールとか? もしくはそれ全部兼ね備えたスーパー上司とか?」
「ああ、生田なら年上ありだな。とにかく大人な女?」
そのどれも当てはまらない。
いたって普通の女。それでいて、俺にとっては超特別な女だ。
後にも先にも俺の感情をあんなにもかき乱す女はいないよ。
「 俺のことはいいから、自分たちのことを話せ」
「そう言えば柿崎さーー」
……そろそろ、退散するか。
奴らが違う話題で盛り上がり始めたのをいいことに、トイレにでも行くフリして帰ろう――。
そう企んで鞄を手に取り座敷の外へと出た。
後で誰かにメールでもしておけばいいだろう。体調でも悪くなったことにするか――。
「眞、もう帰るの?」
靴を履き、スマホを手に取った時、廊下の角から出て来た沙奈絵と出くわした。
「ああ」
まさか、こっそりばっくれる、なんてこと言えずに口籠る。
「そ、そっか。久しぶりに会えたからもっと話せるかなって思ってたのに、残念……」
何故かその笑顔が痛々しいものに思えて、何とも言えなくなる。
「でも、俺以外でも、みんな久しぶりなんだろ? 栗木さんとか、ゆっくり話していけよ」
栗木さんは、沙奈絵の親友で唯一俺たちのことを知っていた人だ。この日も沙奈絵の隣で笑い合っていた。
「うん。そうする。あのね、私、あと一週間くらいこっちにいるつもりなんだけど――」
「なら、なおさらゆっくりできるな。実家に行くんだろ? 親御さんも嬉しいだろ」
「そうね……」
そこで会話が途切れた。
沙奈絵には、頑張ってほしいと思う。今、幸せだといいと思う。幸せになってほしいとも思う。
「――じゃあ俺、行くよ。元気で」
「眞も、元気で」
沙奈絵の横を通り過ぎる。その時、沙奈絵の身体がほんのわずか、強張った。
俺は、俺の戻る場所へ帰ろう――。
「早かったね。飲み会は?」
部屋の鍵を開けると、沙都がすぐに玄関に出て来てくれた。
風呂上りなのか、素顔に少し濡れた髪で部屋着を着た姿――。
そんな沙都の姿に、俺の胸が何故だかじんとする。
気付けばそのまま強く抱きしめていた。
よそ行きの姿じゃない、くつろいだ姿。そんな姿で待っていてくれる沙都を見ると、心が温かくなる。心を許してくれている。そんな気がして。素の沙都が出迎えてくれる場所、俺にとって何より幸せな場所だ。
一緒に暮したい――。
やっぱり、俺は、沙都と家族になりたいんだ。