臆病者で何が悪い!
そんな状態でも、出張明けの身では、容赦なく雑務が降りかかって来る。
仕事なんて全部放り投げて沙都のマンションに行きたいけれど、ただの係員でもない係長の俺がそんなことできるはずもない。
どうして。どうして、そんなに俺を苦しめる――?
終電を過ぎ、タクシーで自宅まで帰る。
部屋に着いたのは2時過ぎだ。
いつも笑ってくれていた沙都の顔が、思い出せない。
部屋の片隅に忘れられたように置いてある小さな紙袋が視界に入る。
こうして見ると、あの中にきらめくダイヤがついた指輪が入っているものとは思えない。
こんな時間なのは分かっている。
でも、耐えられなかった。たまらなくなって沙都に電話をする。
でも、無機質な機械音が繰り返されるだけだった。
翌日、それでも出勤の支度をして部屋を出る。
朝から冷たい風が吹いていた。
マンションのエントランスを通り過ぎようとした時、その風に舞う何かのチラシが足元に落ちる。
おもむろにそれを拾い、エントランスにある郵便受け近くに置いてあるゴミ箱へと捨てた。
その時、出張から戻って一度も郵便受けをあけていないことに気付いた。
これから仕事へ向かうということを考えると、中を確認するのは帰宅してからでいいとも思った。
でも、よく眠れなかったこともあり出勤時間に余裕がある。
俺は、立ち止まり郵便受けをあけた。
一枚のダイレクトメールの下に、はがきを見つける。
それは、沙奈絵からのものだった。
なんで――。
ここに直接来て、入れていったのか?
宛名の面に、俺の名前は書いてあったけれど住所はなかった。
切手も貼られていない。
一体、いつ……。
ニューヨークに戻る前に立ち寄ったのか。
裏返すと、ニューヨークの景色と思われる写真になっていた。
その時、気付く。
自分の赴任先と沙奈絵の住んでいる街が同じだということに。
そして、達筆な文字で書かれた言葉に目が留まる。
――ニューヨークに来てくれるのを待ってます。
恩師の最終講義で久しぶりに再会した時、一度も訪ねていないことを寂しいと言っていた。
だから、はがきを――。
俺は、もう一つ重要かつ重大なことに気付く。
『郵便受けのもの取っておいて』
出張に行く前に、俺自身が沙都に言った言葉。
沙都が、このはがきを見た――?
何の手がかりもなかったこの状況が、急激に頭の中で繋がり始める。