臆病者で何が悪い!
”岩谷沙奈絵”と女性の名前が書いてあって、”ニューヨークに来てくれるのを待ってます”と書かれていれば、いくらでも深読みすることはできるかもしれない。
沙都は俺がニューヨークに赴任することはまだ知らない。
それでも、沙都のことだから、また勝手な想像をしてしまうかもしれない。
住所が書かれていないはがきなら、わざわざここに入れに来たことになる。
ただの女友達や知り合いなら、そんなことはしないと思うだろう。
まさか、俺に沙都の他に付き合っている人がいる、なんてことを考えたのか……。
馬鹿め。
何かあったら必ず連絡しろって、言ったじゃねーか……。
一人大きな勘違いをして、俺を避けてるのか――?
こんなはがき一枚で、沙都は一人苦しんでいるのだろうか。
あり得ない事実とは異なる想像をして、傷付いているのか。
今日こそ、とっ捕まえてやる――。
俺は、仕事に行くというより沙都に会いに行くというつもりで職場に向かった。
どうして、一言、俺に聞かないのか。
こんな風に俺を避けて、その先、どうしようとしているんだ――?
その先の答えを求めていくと、どうしようもないほどに傷つきそうで、考えるのをやめた。
とにかく、沙都と話をしないと。
ただそれだけを考えた。
逸る気持ちを抑えられず、人の姿がない課室に足を踏み入れる。
また、今日も俺が一番か――、と思ったら嫌な声が耳に届いた。
「早いんですね。生田係長」
「田崎さん……」
自分の席に鞄を置いたと同時に、あの男が現れた。
振り向くと、いつもと同じ嫌味な笑顔があった。でも、そんな表情も、無理に作っているようにも見える。
「――さすがだね。海外赴任なんて。すべて、自分の思う通りに事が進む」
「は――?」
どうして、知ってるんだ。
「海外赴任の中でもニューヨークなんて、またエリートコースだな」
「どうしてアンタがそんなことまで、知ってるんだ……?」
俺は誰にも何も言っていない。
それなのに、どうして田崎がーー?
驚きのあまり、田崎の顔を凝視した。
「ああ……。まあ、人事絡みのことには特にアンテナを張ってるから、ってことにしておこうか」
それはつまり、人事課の誰かに情報源があるってことかよ。
そんなの懲戒処分ものじゃねーか。
さすが野心家は、ありとあらゆることをするということか。
「……それで」
田崎が俺に一歩近づく。そして、俺の顔色の微妙な変化を何一つ見逃さないとでもいうような強い視線で見て来た。
「内野さんとはどうするつもりなの? 僕にしてみればかなり重要なことなんだけど」
「アンタには関係ないし、もう俺たちのことはいい加減放っておいてくれ――」
「――ああ、聞くまでもないか。内野さんはきっとこっちに残ることにしたはずだ。それどころか、生田係長とは別れることにしたかな……?」
「……は?」
どうしてそんなこと。この人、何、言って――。
「もしかして、もう別れてくれた?」
その口角だけが上がったような笑みが俺の神経を逆なでる。
「何をバカなことを。そんなはずないだろ」
「バカなことかな。おまえたちを見ていれば、すぐに気付くよ。内野さんもかなりの衝撃を受けていたし。彼女、言葉を失ってた。おまえも内野さんのこと大事だとか言っておきながら一番に彼女に言わないとか、やってることが支離滅裂だろ」
まさか――。
俺の心がざわざわと騒ぎ出す。