臆病者で何が悪い!




「あっつ!」

「な? 夢じゃないだろ?」


俺がニヤリとすると、沙都が笑った。


「うん。夢じゃない」


コーヒーを俺から受け取ると、沙都が湯気を立たせながら口にしていた。

その横顔を見つめる。


――まあ、おまえと一緒なら、どこだっていいんだけどね。


独り言のようにそう零すと、沙都がぶっきら棒に「そういうこと、よく素で言えるよね」と言った。


「ああ、言えるよ。本当のことだしな」

「……」


真正面を見たまま、沙都は黙っている。


その顔は、照れてるな。


言われ慣れるまで、言い続けてやるさ。


「今度はさ、ちょっと足を伸ばして北のエリアにも行ってみようね。そっちは、紅葉、真っ赤なんだって! スティーブ先生に聞いたの」


スティーブ――。


こんな時に。


「そうだな。近いんだし、何度も来られる」


どんな奴か、少し、気になる。


ふとそんなことが頭に過ぎり、それが俺の中で大きくなって行った。




ウィークデーのある日、仕事が早く終わったから、外で夕飯でも食べようと、沙都にメールを送る。


確か、今日は語学学校の授業は午後だったはず――。


そう思っていると、すぐさま返信が来た。


(授業終わって、いま、質問コーナーにいるところ。あと少しで終わるから、どこかで待ち合わせようか?)


俺に、妙案が浮かぶ。
そして、速攻メールを返した。


(職場からおまえの学校近いし、これから迎えに行く)


夫が妻の通う学校に迎えに立ち寄る――。


何ら不思議なことはない。

そこで、スティーブやクラスメイトの男どもに『うちの妻がいつもお世話になっております』と挨拶でもして……。


よし。それだ。

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