臆病者で何が悪い!
「それでは! 我らが同期、遠山君の結婚を祝して、今日の幹事内野から一言」
席に勢ぞろいした同期の前で、桐島がそんなことを言い出した。
「は? なんで私? 桐島が言いなさいよ」
勘弁してほしい。どうして、仲が良いあなたじゃなくて、私なんだ。とてもじゃないが、いつものテンションで面白おかしく話したりできない。じろりと桐島を睨みつけても、両手を合わせて”頼む”のポーズを送って来るのみ。
人前で話すのが嫌だからって……。
仕方なくその場で立ち上がる。
「えっと、では。遠山君、このたびは結婚おめでとう」
本当に悲しくなってくる。人の幸せを祝うのって、どうしてこんなに難しいのだろう。
「地球上にはたくさんの人がいるのに、その中からお互いを選び選ばれたということの尊さを噛みしめてください」
私、何言ってるんだろう。こんな真面目な話じゃなくて、いつもみたいにおちゃらけたことを言えばいいだけなのに。
「それがどれだけ凄いことで奇跡的なことか絶対に忘れずに、奥さんのことを大事にしてください」
「おいっ、何、マジなこと言ってんだよ。内野のキャラじゃないぞー!」
すかさず、挨拶するのを放棄した桐島が野次を飛ばしてくる。
「うるさい。じゃあ、お幸せに。おめでとう。乾杯っ」
やけくその気分でジョッキを高く突き出し声を張り上げた。
いつもより少し距離のある場所に座る希が私を見つめているのに気付く。その距離が、その目が、表情が、私を落ち着かなくさせて。
この日、希と顔を合わせた時、挨拶程度の会話をしただけで、ほとんど希の目を見られなかった。