臆病者で何が悪い!
いつものように、皆のお酒のオーダーを取る。いや、いつも以上に忙しく動き回った。一体私は、何から逃れようとしているのだろう。
お祝い事の飲み会は、皆のテンションがいつもより高い。自分の精神状態とどんどんと乖離していくようで、必死になって明るく振舞った。
「希、そう言えば聞いたよー」
私の向かいに座る香蓮が、その隣に座る希に向かって声を上げた。
「田崎さんと付き合ってるんだって? さすが希だよね。田崎さんって、めちゃくちゃ爽やかな人でしょ? いいなぁ」
「え……っ、それは」
表情を引きつらせた希が私の方を見る。
希、もう田崎さんと付き合っていたんだ――。
田崎さんが希に告白するだろうとは分かっていた。覚悟もしていた。なのに、それが現実として起こった。そのことを希は私に報告しなかった――。
「えっ、マジで? 田崎さんって今、内野と生田と同じ課だったよな? 俺、田崎さんとは仲良くさせてもらってるけど、全然知らなかった。最近の話か?」
香蓮の発言で、皆がそれぞれ会話を中断してこの話題に参加し始めた。
「それは――」
質問攻めにあう希は、誰に何を聞かれても私の方ばかり見ている。
希は、田崎さんの告白を承諾したんだ――。
田崎さんのこと本当は前からいいなって思っていたのかな――。
田崎さんに告白されて、希は嬉しかったのだろうか。あの優しくて包み込むような笑顔を向けられて、頷いたのだろうか。毎日隣で私が見つめて来たあの長い指で、触れられたりしているのだろうか――。
そこまで考えてしまって、思わずぎゅっと目を固く閉じた。
「でも、それなら良かった。俺、結婚式の二次会に田崎さん呼びたいって思ってたんだけど、田崎さんの他の知り合いは呼ばないから申し訳ないなって思ってたんだ。飯塚さんと田崎さんが付き合ってるなら、二人で来てよ。みんなも、二次会来てくれよ」
遠山がみんなにも声を掛ける。
「もちろんだよ。楽しみにしてる」
「絶対行くよ」
同期の皆が笑顔でそう答える。