臆病者で何が悪い!
みんな、笑顔で――。私以外のみんな。
恐る恐る開いた瞼の先に広がる視界の中に、希と、何故か生田の顔が映る。希の、困ったような申し訳なさそうな目。そして、いつの間に来ていたのか、生田の姿。いつもなら一番端に座る人が、この日は真ん中辺りに座っていて。だから私の視界に入ったのだ。笑えていなかったのは、私だけじゃなかった。私と、希と、そして生田。そうだ。生田だって笑えない。
田崎さんと食事に行った日からずっと、頑張って頑張って笑って来た。必死でいろんな感情を押し止めて来たのに。これまで押し止めていた分反発するように、膨れ上がる。
「希が結婚第二号だったりしてー。田崎さんが旦那さまなんて最高だよね。まさに美男美女。小耳に挟んだわよ。田崎さん、希にベタ惚れなんでしょう? いつも帰りの遅い希を家まで送ってるって言うじゃん」
「きゃーっ、愛されてる!」
他の女子が盛り上がる声が、私の胸を刺激して。胸の刺激が身体中に広がって行く。
「それにしても、内野――」
そんな私に気付くこともない遠山が、楽しそうに私を見た。
「田崎さんもさ、内野と飯塚さん同じ同期なのに、ずっと隣に座っていた内野じゃなくて飯塚さんに行くあたり超リアルだよな。内野、同じ女として悔しくないのかよ」
遠山の笑顔が私を見ている。見ているのに――。零すことを耐え続けていた粒が、落ちそうになる。
「そ、そうだよね。ほんと、同じ女として、どうかって……」
こんなのいつもの遠山の憎まれ口だ。遠山だって、私だからこんなことを言うのだ。ちゃんと笑いに変えることを分かっているから。分かっているのに、どうしてもだめだった。遠山の言葉が私の心を突き刺して。笑いたいのに、笑えば笑おうと思うほどに顔が歪んで行く。
ダメ――。こんなところで泣くなんて絶対にダメ――。
「お、おいっ。内野、どうした……? 何、急に泣いてんだよ」
遠山が驚いて真顔になっているのが滲んで見える。こんなの私のキャラじゃない。人前で泣くなんてありえない。どう頑張っても取り繕えなくて。みんなの驚いた視線が私に向かう。驚いて、そしてどこか引いている、視線の数。お祝いの場をしらけさせるようなことして――。
「ご、ごめん。私、ちょっと」
どうにもならなくなった私は、あろうことか、鞄をひっつかんでその個室から逃げ出した。
「沙都っ」
希の声が聞こえた気がしたけれど、振り返ることなんて出来るはずもなかった。