臆病者で何が悪い!
あれ以上、あの場にいることが出来なかった。誤魔化すことも出来ずにあんな風に逃げて来て、私はこの後どうすればいい。
どうやって、明日から同期のみんなと顔を合わせられる――?
分かっていても無理だった。泣いたら終わりだと思っていた。だから耐えていたのに。だから嫌だったのに。溢れてしまった。溢れてしまったら止まらなくなった。
こんなに泣いてしまうほどに、私は田崎さんのことが好きだったのだろうか。自分でもよく分からない。
自分の気持ちに向き合うのが怖くて逃げていたのだ。こんなにもいろんなことから逃げてしまったのだから、これから先のことも何もかも、考えずにどこかに行ってしまいたかった。
店を飛び出して路地へと出て。人ごみを掻き分けるように走る。どこに向かっているのかなんて考えなかった。ただ離れることしか考えられなかった。
「内野っ、待て!」
背後から聞こえた声がすぐ間近になって、強く腕を引っ張られた。
「な、なんで……?」
勢いのあまり生田の方へと引き寄せられる。その反動のまま、雑居ビルの間の路地裏に引き入れられた。その壁に押しやられ、すぐ真正面に私を見下ろす生田がいる。
「なんで、生田が追いかけてくるのよ」
自分が涙を流しているのだということも忘れて、目を見開いた。
「だから、田崎さんはやめておけって言っただろ」
「生田――」
私を見下ろして、低く深い声を吐く。
「飯塚があんたのところを訪ねてくるたび、田崎さんは飯塚を見ていた。あんたを介して飯塚に近付こうとしていた。全然気づかなかったのか?」
怒ったように生田は私に言葉を放つ。
「やめてよ。私は別に、関係ない」
「じゃあ、なんで泣いてるんだ。どうして、こんなところに逃げ出して来た?」
「うるさい。生田に関係ない!」
生田の言葉が私を追い詰めて、苦しくさせる。頭を何度振っても生田は解放してくれなかった。
「田崎さんと飯塚のことがショックで、こんなとこに逃げて来たんだろう?」
「どうして、そんなこと言うの?」
どうして、わざと私を苦しめるようなことを言うの――?
苦しくて悔しくて、睨むように生田を見上げた時。何故だか、生田までもが苦しげに表情を歪ませていた。