臆病者で何が悪い!
「田崎さんと飯塚は付き合ってるよ。あんたの親友は、一つ返事で了承したそうだ。あんたがずっと想って来た人なのにな」
意地悪く声が響く。私の肩を掴む生田の手は痛いほどに強い力だった。
「やめてっ! そんな風にいつも何でも分かっているみたいな顔をして。そうやって、心の中で私を笑っていたの?」
生田は、全部お見通しだった。私が田崎さんを好きだったことも、田崎さんが希を好きだったことも、希も田崎さんを憎からず想っていたことも――。
「生田だって」
そう言う生田だって。自分だって本当は傷付いてるくせに――。
逃げたいのに私を追い詰めるようなことばかり言う生田が怖くて、悔しくて。既に私の心はかき乱されて、感情のままに生田に酷い言葉を投げつけてしまいたくなる。自分でももう感情を制御できなかった。
「生田だって、逃げて来たんでしょう? 希のことがショックで」
生田も希のことをずっと見ていたから、そうやって田崎さんと希のことに気付いたのだ。ずっと見ていなければ、そういう風に見ていなければ分かるはずもない。
「何も出来ないでいるうちに希を奪われて! 生田だって、希のこと――」
一瞬、生田が泣きそうな顔をしたように見えた。それに目を奪われていると、喚く私の声が遮られて。涙にまみれた私の叫び声がぴたりと止まる。一瞬、何が起きているのか分からなかった。
どうして――?
どうして、生田が私にキスなんかしているの――?
呼吸が止まる。信じられないのに、確かに唇に感触がある。いつの間にか夏は終わっていて。肌に感じる空気には秋の気配が混じる。生田の唇は、その秋の空気みたいにひんやりとしていた。
あまりに驚き過ぎて、石のように固まった。抵抗することも逃げることも出来ずに、金縛りにあったみたいに。バカみたいにじっとして。そっと離れて行った唇とともに、生田が私を見下ろす。