臆病者で何が悪い!
「これで、嫌でもあんたは俺のことを考える。その頭の中で、俺のことを考えろ」
生田の手のひらが私の両肩をさらに強く掴む。
「な、何してんの……? こんなの、からかうにも悪趣味すぎる――」
この状況を理解できなくて、怯えるように生田を見る。そこにいるのは、いつもの飄々として無表情な生田じゃない。だから、余計に混乱する。
「からかう? なんで俺が、あんたをからかわなきゃならない? 俺はそんなに暇じゃないんだよ」
ぐいっと掴まれた肩が壁に押し付けられて、その分だけ、また生田の顔が迫る。
「自分は女として見られないんだって言っていたな。それを言うならあんただって、俺を男としてなんかこれっぽっちも見ていない。だから、そんなことが言えるんだろ? あんたは何も見えちゃいない」
そんなこと、突然言われたところで理解できるわけがない。
どう理解出来るっていうの?
何も見えていないって、どう見ろっていうのよ。私は、自分を認めてあげられるものを何一つ持っていないんだから――。
「そうよ。私は、何も見えてない。間違えないようにって注意深く生きて来たつもりなのに、結局何も見えてなくて! こうして、またバカな自分を実感しなくちゃならない――」
「だから、俺を見ろって言ってんだろ」
不意に視界が暗くなる。肩を掴んでいたはずの生田の手が私の背中に回されている。どうしてだか、私の身体が生田の胸にきつく閉じ込められている。
「やっ……」
自分が生田に抱き締められているのだと、数秒経ってようやくわかった。押し潰されてしまうのではないかというほどに、強く腕を回されて。息を吐くのもままならない。いくら身体を捩ろうともびくともしなかった。
「全部、忘れさせてやる。あんたの惨めさも、いたたまれなさも、哀しみも、全部なかったことにしてやるから」
あり得ないほどはっきりと生田の鼓動が聞こえる。その鼓動が、生田という人間を初めて一人の生身の男なのだと私に実感させた。そして、それと同時に生田がとても近くに感じて。戸惑っているその横で、強張った身体が生田の腕の中で解けて行く。
「――だから、俺を見ろ」
どうして生田がそんなことを言うのか分からないのに。心の傷がひりひりと疼いているのに、その腕を振り払えなかった。