臆病者で何が悪い!
えっと……。それで、私はどうしてここにいるんだっけ――。
今、私は、部屋の片隅に出来うる限り小さくなって座っている。もう一度振り返って整理してみよう。
居酒屋『運』で、希が田崎さんと付き合っているということを知り取り乱して、遠山ごときに馬鹿にされたことで耐えられなくなって会もそのままに飛び出して来た。どうしようもなくなって一人になりたいから逃げたのに、生田が何故か追いかけてきた。なんだかんだと説教されて。悔しくて反論したら、その口を封じ込めるように、キ、キスをされた。そう、生田が私にキスをして来たのだ。ここ、まず第一の疑問点。
『俺のことを考えろ』
なんて言って。悪い冗談だと思った。冗談でキスなんかするものなのか私の経験値では知りようもないのだけれど、生田のような何を考えているのかよくわからない男はもしかたしたらそういうことをするのかもしれない。
そう思ったら、『からかってキスするどほ暇じゃない』と怒られた。勝手にキスなんかされたのは私なのに、どうして私が怒られなきゃならないんだ?
それでまた説教が始まって、『あんたは何も見えちゃいない』なんて言われて、『見えてないからこんな目に遭っているんじゃないか』と叫んだら突然抱きしめられた。
ここ、第二の疑問点。説教されているのか優しくされているのかどっちだか全然分からなくて。
『全部忘れさせてやるから、俺を見てろ』と力の限り抱きしめられたから、反射的に離れようとしたのに余計に強く抱きしめ返された。その行動すべてが訳が分からないはずなのに、生田の腕が妙に私を安心させて。
『今日で全部忘れさせてやるから来い』と言われて、今に至る。ここ、第三にして最大の疑問点。
図らずも、生田に言われた通り、私の頭の中は生田のことで一杯だ。だって、言葉も行動も疑問だらけなんだもん。
そして何より、自分が分からない。
『来い』と言われて、どうして私はのこのこと言われるがままに生田に付いて来たのだ?
これが、世に言う”自棄”というものだろうか。こうして、男女は一夜限りの関係を結ぶのだろうか……。
そこまで思ったところで、自分の置かれている状況が急に怖くなった。
私、生田と出来るの――?
そもそも、生田は私と出来るの――?
私に背を向けて、スーツの上着を脱いでいる生田をじっと見つめる。すらりと伸びた均整の取れた身体が、急に生々しく感じた。非常に落ち着かない。
引き返すなら、今だ。まだ、間に合う――。
「おい」
気付かれないうちに――。
「おいっ!」
「は、はいっ」
そろりと玄関に向かおうとした私の肩を掴む生田の姿が、すぐ間近に現れた。
シャツの第一ボタンを外して、ネクタイもなくなっていた生田の胸元が目に入る。そこから、思い切り目を逸らした。