臆病者で何が悪い!
「確かに田崎さんのことは好きだったんだと思う。でも、この傷は田崎さんのことだけが原因じゃない気がする。泣いてしまったこの気持ちは、失恋したからだけじゃない。たぶん」
これまでの経験すべてが積み重なってのこと。哀しくて惨めな記憶を積み木のようにいくつも積み上げて来て、そしてまた一つ新たに積み上げてしまった。それが情けなくて、悔しかったのだ。また、女として惨めな出来事にぶちあたってしまったんだって。一度や二度ならまだしも、こうもこんな経験ばかりだとさすがにもう自分を支えられなくなる。
「だからやっぱり、田崎さんへの想いは涙ほど深いものではなかった。憧れの延長みたいなものだったんだと思う」
さっきまであんなにも破れかぶれだったのに、その時の自分が遠くなって行く感覚で。それは多分、傍に誰かがいてくれているから。一人だったら、今頃本質以上に深く沈み込んでいたかもしれない。悲しみが波のように静かに引いていくのは、きっと生田がいてくれるからだ。こうして、話せているから。聞いてくれているから――。
「じゃあ、そう思えよ。本当にそういうことにしろよ」
「……生田?」
腕の力が不意に強くなって、ぎゅっと引き寄せられる。身体だけじゃない、心までもぎゅっと締め付けられた。
「田崎さんはあんたの憧れの人で、その憧れていた人と仲のいい友人が付き合うことになった。それで少し悔しい気持ちになった。ただそれだけのこと。すぐに気にもしなくなるようなこと」
「……うん」
心が凪いでいく。哀しみが引いて行く。
「今度、飯塚と笑って話せばいい。田崎さんと付き合えて羨ましいって」
「うん……っ」
好きだったという気持ちをちゃんと認めさせてくれて。そして、こうして私の心を楽にするようにしてくれて。ちゃんと終わらせて、前を向かせてくれる。それは全部、生田のおかげで。それなのに。もうそんなに悲しくもないのに、何故か涙が零れそうになる。泣きたくなる。
「どうってことない」
「う、ん……」
零れ落ちて来てしまう涙は、何を意味しているの――?
分からないのに泣けてくる。生田の声が引き金になって、心の膿を放出するように次から次へと零れて行く。
「泣くのも今日だけだ」
落ち着かせるようにと、私の髪を何度も撫でる。その優しい触れ方に、涙腺が刺激されてしまう。
「う……んっ」
きっと、生田の優しさに涙が溢れているのだ。
もう上手く言葉に出来ない。私を抱きしめていた生田の大きな手のひらが、頬を伝う涙をそっと拭ってくれた。私が泣き止むまでずっと。ずっとずっと生田の顔は見えないままで。