臆病者で何が悪い!


生田の思惑通り。私の頭の中も心の中も、生田のことばかりだ。飄々としていて無愛想で、時々意地悪で、そしてとびっきり優しくて。そんな訳が分からない生田のことばかり考えてしまうに決まってる。

家にたどり着いたらどっと疲れが出て、烏の行水のようにお風呂に入った後はベッドに飛び込んだ。

希にメールしないと。
桐島と遠山にも、謝りのメールしなきゃ……。

そう思いはしたものの、あまりに身体が重くてそのままベッドに沈み込む。


特に予定のない土曜日、私は死んだように眠りこけた。目が覚めた時には、部屋がなんとなく薄暗かった。

なにげなく時計を見ると……4時!
夕方じゃないの!

これでは絶対に夜眠れない。睡眠はたっぷりとったはずなのに、脳はまだしっかりとは働かない。そのくせ心の方ははっきりしているから困る。のろりとベッドから這い出て、ローテーブルの前にぺたりと座る。

「はぁ……」

とりあえずの溜息。

そりゃ、溜息も吐くわ……。

昨日は、あまりに怒涛過ぎた。

田崎さんと希――。

そうだ。その件が一番の大事件だったはずなのだけれど、その衝撃が遠い昔のことのような気がする。そんなこともあったよね、的な。

まあいい。希にメールしよう。

(月曜日、希の都合がよければランチしない?)

うん。ちゃんと希と向き合えそう。思っていた以上に希と会うことを負担に感じていない。いつもと同じ感覚に近い気がする。

それより何より、月曜日、生田に会う方が圧倒的に気まずいんですけど……。

昨日は、心かき乱されていて感情にのまれていたから深く考える余裕なんてなかった。
あの夜、あの瞬間、なんとも言えない不思議なほどにしっとりとした雰囲気に浸っていられた。

だけど一日経って我にかえる。

私、とんでもないことしたんじゃない……?
だって、キス、ですよ?

キス……。

生々しく蘇る。生田の冷たい唇の感触――。思わず唇に指をあてる。

ここに、生田の唇が……。

あの瞬間まで、確かに同期の一人だった。特に近しい間柄でもない。最後にキスしたのは、大学四年の時。それ以来、この唇が誰かと触れ合ったことはない。

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