臆病者で何が悪い!
この案件の会計課側の担当者が遠山だということに、今更ながらに気が付いた。
また、ここにも顔を合わせたくない人が……。
でも、せっかくの遠山のお祝いの場を関係ないことで邪魔してしまった。それだけは事実だ。謝罪しなければならない。心を決めて、会計課へと足を踏み入れた。
「遠山さん」
「はい……あ」
仕事の場でのよそ行きの声を出したから、遠山は最初私だと気付かなかったようだ。
「これ、そちらから頼まれていた資料です。いくつか持ってきたんですが、必要なものを会計課の方で確認してください。その方が確実だと思ったので」
「ああ。分かった。預かっておく」
遠山が、なんだかバツが悪そうに私を見ている。いや、こちらだって相当に気まずい。
「……それと、仕事とは全然関係ないんだけど、ちょっといい?」
遠山の状況を確認して、人目に付かないところに促した。
「金曜日はごめん。遠山のせっかくのお祝いの場だったのに、私――」
頭を下げる私に、遠山が慌てたように遮った。
「いや、俺の方こそ悪かった。ちょっと、デリカシーなかったなって、後で反省したんだ」
「……え?」
顔を上げると、遠山の珍しく遠慮がちな表情がそこにある。
「田崎さんと飯塚さんのことで、それにおまえを引き合いにだしてバカにするようなこと言って。俺、おまえ相手だとつい遠慮がなくなってさ。他の女の子には自然としている気遣いもしなくなるんだ」
その発言も充分に失礼ですけど……。
でも、当の本人はいたって大真面目な顔をしている。分かっている。私に対してそうなるのは遠山だけではない。
「ううん。別に、そんな気にするようなことでもないよ。ちょっと、いろいろ疲れていたんだと思う」
なんだ。遠山には生田の意味不明な誤魔化しは通用していないみたいだ。それで都合が良かったのか悪かったのか。判断は難しいところだけれど。
「それにしてもさ。生田ってああ見えて優しいよな」
「生田……?」
遠山が、うんうんと頷く。
「だって、突然泣いた内野に恥をかかさないようにって、ああやって咄嗟に誤魔化したんだろう? 同じ課の仲間だから助けてやったんだよな。あいつ、いつもはドライな感じするけど、結構優しいとこあるじゃん」
「そう、だね……」
どう相づちを打って良いのか分からない。でも、遠山はそう納得しているみたいだし、特に訂正する気もない。
それに、希よりよっぽど遠山の考えの方が理にかなっている。
私と生田は同じ課だから、”友情”とは違うにしてもそれに近いような感情を私に持ってくれているのかもしれない。同じ男である遠山の考えの方が、絶対に当たっていると思う。
私と生田――。二人を並べて見れば、「色恋」か「人情」か、どちらなのか一目瞭然だ。
生田が言っていたように、生田は誰にでも優しいわけではないのかもしれない。でも、少しでも関わりがあったり仲間だったりしたら、放っておけない。そういうタイプなんだと思う。そうだ。そういうことだ。良かった、惑わされなくて。また、勘違いしてイタイ目に遭うところだった。もやもやが晴れたような気がした。
「なんだか、遠山のおかげですっきりした。ありがとう」
「え? 何が?」
「ううん。いいの。こっちの話。じゃあ、さっきの資料よろしくお願いします。何かあれば連絡ください」
そう言って、会計課を後にした。