臆病者で何が悪い!
定時を過ぎて、やっと一息つくことが出来た。ふと丸い壁掛け時計に目をやる。
今日は、なんとか10時には上がりたいなぁ……。そう願いながら、腹ごしらえのための買い出しに行くかと立ち上がる。
遠山のおかげで、誤った道に引きづり込まれなくて済みそうだ。
このまま、生田とのかかわりは最低限度にしておこう。
まだ、どうしてもあの唇の感触や抱きしめられた胸や腕の温かさが、生々しく再現されてしまう。どうしても意識してしまう。
でも、少し距離をおけば、また以前の関係に戻れるだろう。
そんなことを考えながら私の課があるフロアの廊下を歩いていると、反対側から私を見つけて駆け寄って来る姿があった。あれは、京子だ。同期の女子、香川京子。
「沙都! ちょっと、待って」
何をそんなに慌てているのだろう……と思って、すぐに嫌な予感がする。彼女も、金曜日の飲み会に来ていた。
「うん、ど、どうしたの?」
自然と及び腰になる。
「ここだとなんだから、そこの休憩室に」
「え、え?」
半ば無理やり引っ張られていく。誰かいてくれと願ったのも虚しく、フロアの奥まったところにある休憩室には誰一人いなかった。
これで、思う存分話が出来てしまうじゃないの!
非常に、話したくない。