臆病者で何が悪い!
「ねえ、沙都。一体どういうこと?」
「何が?」
と一応聞くけれど、多分意味はない。
「生田君のこと。金曜日、私、びっくりして夜も眠れなくて」
京子、近いって。私に詰め寄る。それだけ、彼女の必死さが伝わる。夜も眠れなくたって私のところに電話して来たりはしない。そんな距離感だからこそなおさらだ。
「沙都、生田君とどうなってるの? まさか、付き合ってるとか、そういうんじゃないよね?」
その懇願するような目を前に、私は一体どう言えばよいのだろう。
「付き合ってないよ。生田がおかしなこと言ったんだよね? でも、付き合ってないから」
大きく手を振る。手を振りながら思い出す。
あの、夏の同期飲みの時。二次会で、生田の隣に座ってはやたらと話しかけていたのは京子だった。
付き合っていない。
それは事実だ。嘘はついていない。
「そう? 付き合ってない? よかった……。でも」
安心したのかと思ったら、京子がまた眉間に皺を寄せた。
「でも、どうして生田君があんな風に沙都を追いかけて行ったの? 俺が強引に迫ったって何? あの後、二人はどうしたの?」
今にも飛び掛かって来そうな勢いだ。
「どうも、こうも……」
あの夜のことを、ここで説明するの――?
京子に――?
そんなこと出来なかった。出来るわけない。
「ないよね? 何もないよね?」
目が、怖い。
キスは、何かあったに入るのだろうか――?
ここは都合の良い解釈をさせてもらい、勝手に定義づけよう。
何かあった:男女(に限らず)二人の間で、肉体関係をもったことをいう。
それで行こう。その定義なら、「何もない」ということになる。うん。
「ないよ。ない」
こういうところ、役人思考だな……。我ながら公務員に染まっていると思う。
「そっか……。ほら、生田君ってプライベート全然見えないでしょ? それとなく探りを入れてもいつもなんだかんだとはぐらかされるし。彼女もいないのかなって勝手に思っていたんだけど、金曜日の生田君を見てびっくりしちゃって」
京子が一人納得したように思いを吐露している。私と生田のこの状況は、どんな言葉で当てはめるのが適切なのだろうか。遠山の言うように、同僚としての感情が一番近いのだろう。だから、私は京子に嘘をついているわけじゃない。だけど、なんとなく心が重かった。
とにかく、これ以上生田を意識してはいけない気がする。
生田を意識して、生田のことを考えて、私にどんないいことがあるっていうの?
そんなの一つもない。勘違いしたくない。
京子は自分の気持ちをはっきり私に言ったわけではない。
でも、面倒なことに巻き込まれるのは御免だ。
身の程知らずの女になんかなりたくない。