キミが可愛いわけがない
「さぁ…」
いや、さぁって…。
なんで変なことはぐらかすかな。
「なんで濡れてんの」
「なんでって…。台風だからおばさんたち今日帰れないらしくて、それでユズ風邪引いてるし、死んでないかなーってちょっと顔見に来た」
なんでちょっと死んでるのワクワクしてるみたいな言い方なのよ。
「そっか。心配してくれたんだ」
「いや、日頃の仕返しを今のうちにと…」
「ひゃぁー素直じゃな…っ───はっ、?」
突然、芽郁が私の左手をギュッと握ってから、ベッドに顔を伏せるように置いた。
何事?!
「すげぇー心配した」
「……っ、」
っ?!
「ユズが目覚ますまで…すげぇー心配した」
「芽郁…」
「台風だし、病院にも薬局にも行けないし、風邪薬どこにしまってあるからわかんないし、冷えピタは冷蔵庫で冷やしてあったからまじ助かったけど…」
よくしゃべるな…芽郁…。
なんて、彼のつむじを見ながら思う。
頭が回らない。
だけど、芽郁がやっぱりすごく心配してくれたんだってことがわかって、胸がキューっと痛くなる。