キミが可愛いわけがない
落としてみてよ(side 咲菜)
(side 咲菜)


真っ暗な校舎。


廊下側の窓からは、まだ明かりがついている体育館の前で写真を撮ったりおしゃべりをしてる生徒が見える。


子供の頃、ママからもらったオルゴールの曲が、今、音楽教室から響いている。


私は入り口の前で息を潜めて、じっとその曲を聴く。


滑らかで、でもちゃんと力強いピアノの音。


初めは苦手なタイプだと思っていたけれど、彼の弾く曲を聴いて全てが変わった。


こんな風に弾く人は──────。


きっと誰よりも優しくて、繊細に違いないと思った。


あれから、私はずっと彼が音楽室にいると分かる日は、音楽教室の外に隠れて、この音を目を閉じて聴き入っている。


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