蜜月なカノジョ(番外編追加)

「声を…」

真っ先にお礼を言いに行こう。
逸る気持ちと共に一歩足を踏み出したところでハッとする。

今の俺は…あの時の俺じゃない。
ナオとなっている今、彼女にとって俺は完全に初対面の人間だ。

そもそもたったあれだけの出来事を彼女が覚えている可能性は極めて低い。
ただでさえ彼女はあの時俺を見ていなかった。仮に男として声を掛けたところで、下手すれば単なる不審人物だと思われてしまうかもしれない。

だからといってようやく会えた奇跡をみすみす無駄にするわけには___

「!!」

そうこうしているうちに彼女が立ち上がりレジへと向かう。
もし彼女がこの店に来なければもう二度と会えないかもしれない。

体は考えるよりも早く行動に移っていた。

「ちょっと私がレジするからどいてちょうだい」
「えっ?! お、オーナー?!」

いきなり押しのけられたスタッフが唖然としている。そりゃそうだ。
だが今はこうする以外に残された選択肢はない。
首を何度も傾げながらテーブルの片付けに向かったスタッフを横目に見ながら、俺は目の前まで近づいてくるあの子に全神経を注いだ。

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