蜜月なカノジョ(番外編追加)


『……でも…それでもっ、ナオさんは…私にとって……大切な人、だから…』

『ナオさんが本当は男の人だったんだとしても、私に与えてくれた愛情に嘘はなかったって、そう思えるからっ……だから、だからっ…』


大粒の涙を零しながら必死に紡がれたその言葉に息もできないほどに胸が締め付けられて。我慢しなければとわかっていたのに到底抑えていることなんて不可能になって、俺は懇願するように杏を自分の腕の中に閉じ込めていた。

華奢な体はいつにも増して儚げで。
しっかり抱きしめていなければ今すぐにでもどこかへ消えてしまいそうで。

そんな情けない俺にもかかわらず、杏は「ナオさん」と何度も何度も繰り返し口にしながら必死で俺の背中に腕を回した。
どこにこんな力が秘められているのだろうと思うくらいの力で、それがまだ俺を必要としてくれている証なのだと勝手に都合良く解釈した。


今は後ろ向きなことは考えたくない。
ただ目の前にいる杏の体温を、杏の紡ぐ言葉だけを感じていたい。

こんな俺だと知っても尚、大切な人だと言ってくれた杏を____信じたい。

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