蜜月なカノジョ(番外編追加)

「ちょおっと~? 仮にも恩人に何て言い草なの?!」
「い゛っ?! いででででっ! やめろ、馬鹿力っ!」
「だーれが馬鹿力ですってぇ?」
「いってぇ! ばか、本気でやめろって!」

むんずとあり得ないくらいに引っ張られた耳朶に、さすがのナオさんも堪らず苦悶に顔を歪めている。

「さ、こんな薄情な男は放っておいて行きましょ、杏ちゃん」
「えっ? あっ…」

痛みのあまり咄嗟に離れてしまった手に、すかさずカナさんの手が絡みついてきた。そのままするりと私と腕を組む形になると、その場にナオさんを残してスタスタと歩き始めてしまった。
それに気付いたナオさんが血相変えて追いかけてくる。

「おい! 杏に触るなっ!!」
「あーうるさいわね。私は空気なんでしょ? だったら見えないんだから黙ってなさい」
「バカ言うな! 杏に触っていいのは俺だけだっ!」
「あーもう、ほんっとどいつもこいつも…独占欲の強い男のうっとおしさったらないわね。杏ちゃん、この男に変な真似されたらすぐに言うのよ? 再起不能なくらいにとっちめてやるから!」
「そんなことはどうでもいいから離せって!」

見たこともないような形相でカナさんの手を引き剥がすと、ナオさんはフーフーと鼻息荒く私の手を固く握りしめた。
あまりの必死さに、さすがのカナさんも心底呆れているようだ。

「……はぁ。ほんっと、どうして私の周りの男ってこんなんばっかなのかしら」


何だか意味深な溜め息の真相がわかるのは、この後のことだった。

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