百花繚乱 社内ラブカルテット
「このまま帰り? それなら軽く一杯どう?」

「えっ」


どこまでも優雅にスマートに誘いかけられて、私は一瞬どう返事をすべきかわからず、バチッと大きく瞬きをした。
そんな私に、樫本さんはすぐに次の言葉を畳みかける。


「週明けからの残業対応のお礼に。遅くまで引き止めないよ。たまにはどう?」


どこか悪戯っぽく細めた目で小首を傾げられて、私は返事に窮して口ごもった。


断ろうにも、ついさっき私は自分で『特に予定もなかった』と言ってしまったばかりだ。
しかも仕事のお礼と言われてしまっては、あまり無碍に断るのもどうかというもの。


どうしようかと思いながら、私はなんとなく営業第二本部のデスクが並ぶ島の方を見遣った。
まだ大半の行員が残って仕事をしている中、そこに景の姿はない。
遠目にも、彼のデスクが綺麗に片付いているのはわかり、私はそっと肩を竦めた。


まあ、一杯くらいなら、悪いことじゃないか。
仕事の相談が目的で、ウチの課長とランチやアフターファイブの食事に行ったことはあるし、景も私以外の女の子と飲みに行った報告をしてくれたこともある。


「……はい。それじゃ、一杯だけ」


今日帰ったら、ちゃんと景に報告すれば、問題ないかな。
そう判断して、私は樫本さんのお誘いにOKした。
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