百花繚乱 社内ラブカルテット
樫本さんはすぐに帰り支度を始め、私に『エントランスで待ってて』と言った。
だから私は先に営業部のフロアを出て、グランドフロアの総合エントランスに降り立った。


樫本さんの様子だと、多分五分もしないうちに合流できる。
腕時計でだいたいの時間を読みながら、何気なく目を上げて、自動ドアの向こうの通りに目を遣った。
その時。


「あれ。景……?」


私の視界を横一文字に通り過ぎる姿に気付いた。
間違いない。
あの濃紺のストライプ模様のスーツ、昼間に見たばかりだ。


もしかしたら、用が済んだんだろうか。
もしそうなら、景も誘って行った方がいいかもしれない。
景と樫本さんは同じフロアで働いてるから知らない仲じゃないし、事後報告にするより自然だろう。
樫本さんにも『たまたま同期がいたから』と言えば、不自然じゃないはず。


私は自動ドアに向かって足を踏み出した。
次の一歩は駆け足になる。


外の通りに飛び出し、タクシー乗り場にその背を見つけた。
「田神君!」と声に出しかけて、ピタリと足を止める。
彼が一人ではなかったからだ。
しかも景の隣にいるのが紀子ちゃんだと気付いて、目にしたものを確かめるように、私は何度も瞬きを繰り返した。
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