百花繚乱 社内ラブカルテット
たまたま並んでいるわけじゃない。
だって紀子ちゃんの方はしっかりと景に目を向けている。
景はそっぽを向いているけれど、その口がパクパクと動いているから、遠目でも二人が一緒にいる様子は見て取れる。


二人が知り合いだったということに軽い驚きを覚えながら、私の胸の鼓動は嫌なリズムに乱れ始める。
どこでどういう接点があったんだと思いながらも、気になるのはそこじゃない。


だって私は、紀子ちゃんから退職の本当の理由も聞いていた。
紀子ちゃんの名前は出さないまま、それを景に話した。


あの時、景の様子がおかしかったことを思い出す。
その後、今夜のデートを景からドタキャンされた。
そして今、二人がプライベートで会っているという現実――。


「まさか……」


私の頭の中で、瞬時に思考が繋がっていく。


まさか、まさか。
紀子ちゃんが言っていた『結婚に煮え切らない彼氏』って、景のことじゃ……?


悲鳴みたいな声が漏れそうになるのを堪え、タクシー乗り場に向かって足を踏み出した。
けれど私は、後ろから肘を掴まれ止められてしまった。


「こーら。どこ行くんだよ。いきなり走り出すから、焦った」


頭上から降ってくる声と小さな溜め息に、私も反射的に振り返る。
私の肘を掴んでいたのは、樫本さんだった。


「ん? どうかした?」


自分を見上げる私の視線に、彼は訝し気に首を傾げた。
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