百花繚乱 社内ラブカルテット
「すみません。勢い余って乗っけちゃいました」

「いや、乗っけられるのは構わないけど。……何? このわかりやすい尾行」


どこかじっとりした視線を横顔に感じて、私はそおっと目線を樫本さんに向けた。
彼はむっつりと唇をへの字に曲げて、胸の前で腕組みをしている。


「び、尾行ってわけじゃ……」

「いや、尾行だろ。前のタクシー……あれ、男の方、二部の田神か。君の同期だっけ?」


気付かれてなければ、誤魔化せると思った。
あの一瞬しか見てなかったはずなのに、やっぱりデキる男は違う。
樫本さんは遠くに焦点を合わせる時のように、フッと目を細めた。


「一緒の女、彼女か? なんか見覚えが……」

「彼女じゃないです! あの子はウチの課の後輩でっ……!」


樫本さんのその一言に神経を逆撫でされた気分で、私は思わずそう叫んでいた。
狭い車内に私の大声が響き、運転手さんの肩までビクッと震えるのを見てしまった。


「す、すみません……」


慌てて謝りながら、私はシートに背を預けた。
今度は逆に樫本さんの方が前に身を乗り出す。


「……なんの修羅場だ? これは」


探るような小さな声で問われ、私は言葉に詰まった。
この状況だけでなんとなくバレてる気がするのは、私の気のせいじゃないだろう。
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