百花繚乱 社内ラブカルテット
「あ、合鍵。もらってるんです」

「……マジか」


それをちらつかせたことで、私がどこまで踏み込むつもりか読み切ったのだろう。
樫本さんは小さく『Jesus!』と舌打ちしてから、お尻のポケットから二つ折りの財布を取り出し、運転手さんに一万円札を渡した。


「お釣りはいいです。ありがとうございました」


そう言って、自動で開かれたドアから外に降り立った。


「えっ……。あ、あの、樫本さん! お金は私がっ……!」


そう言いながら、私も逆側のドアから外に出る。
車体の後ろを回り込んで彼の隣に並んだ時、タクシーは走り出して行った。


「樫本さ……」

「ほら、行くぞ」


呼びかけた私を遮り、彼は私の背を軽くポンと叩いた。


「気が済むまで確かめたら、約束通り、飲みに行くからな」


樫本さんはニヤッと薄い唇の端を持ち上げ、私より先にマンションに向かっていく。


「えっ、あ、ちょっと……!」


なんだかどっちが主導権を握っているのかわからない。
それでも私は、大きな歩幅で先を行く樫本さんの背を追いかけた。
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