百花繚乱 社内ラブカルテット
午前九時の開店から午後三時の閉店まで、お客様は絶えず来店する。
窓口には常時行員が待機していなければならないから、外国為替課の女性行員は、お昼の休憩を三交替で取っている。
私は今日、一番最後の遅番だった。


中番で戻ってきたみちると入れ替わりで、私はビルの二十階にある行員食堂にやってきた。
遅番の時は混雑のピークも過ぎていて、食堂は空いてるしのんびり食べられるけれど、悲しいくらいまともなメニューが残っていない。


今日も予想通り、定食で残っていたのは日替りのAランチのみ。
油っこそうなハムカツのディスプレイを見ただけで食欲が失せた。
私は十月からの新メニュー、きのこあんかけうどんをセレクトして、窓際の四人掛けテーブルに一人で悠々と腰を下ろした。


生姜風味のあんかけのおかげで、なんとか箸を進めていた時、背後から『お疲れ』と声をかけられた。
声に反応する前に、向かい側に私が敬遠したAランチのトレーが置かれる。
どかっと椅子に腰を下ろしたのは、同じ本店ビルの四階にオフィスがある、営業第二本部の課長代理、田神景(たがみけい)だった。


「なんか浮かない顔して。どうしたの? 古川さん」


そう言いながら、パキッと小気味いい音を立てて箸を割る。
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